個人研究
総合:
三富 智大

附属新潟小学校1年目,三富智大(みとみ ともひろ)と申します。研究教科は総合的な学習の時間です。今年度は中学年複式学級の担任をします。
総合的な学習の時間では,目の前の課題に対し,根拠をもって解決していく力が求められています。そのためにはまず,明確な課題意識をもつことが必要です。そして課題解決につながる意見に根拠をもつためには,学習対象に主体的に関わり,学習対象を深く理解をしなくてはなりません。単元を通して子どもたちが学習対象に対してどう関わり,どんな捉え方をしていくのか,その先にある「子供が身に付ける力」を明確に示すための設計をしていきます。
今後、研究や授業の様子をお伝えしていきます。多くの皆様からご批正をいただければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
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Mail : mitomi@fusho.ngt.niigata-u.ac.jp
和菓子の今昔物語 町の変化から見る和菓子の魅力(小単元Ⅱ)
2025.03.12前回に引き続き、今年度の総合の実践をご紹介します。


小単元Ⅱでは、子供は金巻屋が作る和菓子について学び、和菓子の作り手の気持ちと買い手の気持ちがつながっていることを理解しました。そして、小単元Ⅲでは子供たちは探究課題を理解するために、更に探究を進めました。子供は、お店が変われば、そのお店の作り手が考えていることも違うのかという新たな疑問を生み、金巻屋以外の和菓子屋と交流することを望みました。子供からは他にも板書にあるような様々な学習活動が表出されましたが、そこには自分たちが本当にすべき学習は何かを立ち止まって考え始める子供の姿がありました。つまり、この子供はこれまでの学びとこれからの学びとをつなげようとしているのです。この子供の姿をきっかけに学級でこれまで明らかにしてきたことと、これからする学習はどのようにつながるのかを整理し始めたのです。このように対象の探究を経る中で、自分たちで課題を吟味したり、学習活動を選択していく姿が見え始めました。つまり、探究が自律化し始めていく瞬間であると言えます。


「お店が変われば、そのお店の作り手が考えていることも違うのか。」という新たな課題を解決するために、3つの和菓子屋と交流し、収集した情報を整理・分析しました。作り手から聞いたこと、お店の商品を食べて感じたことなど子供一人一人が交流を通して蓄積していった情報を基に、3つの和菓子屋の共通点や相違点を見いだしました。そこから見えてきたことは、作り手が変わっても一つ一つの和菓子に思いを込めているけれど、こだわっているものは違うということです。具体的には、あんこの味を突き詰めること、洋菓子の要素を和菓子に取り入れるなど、そのお店独自の取組です。そして今回、交流した和菓子屋はどれも創業100年以上であることが分かり、子供たちの中で100年前から現在までどのように和菓子作りを続けているのかという新たな疑問が生まれてきました。子供が和菓子の過去に目を向け始めたのです。

3つのお店と交流した子供は、3つのお店が100年以上前からあることと、和菓子は今も変わらず作り続けられている事実から、和菓子が今まで残り続けてきたことにはどんな理由があるのかを考えました。以前の交流で子供は、作り手が和菓子の形や味を時代に合わせて変えていることを聞いています。具体的には、作り手があんこの味を時代や和菓子を食べたお客さんの反応によって少しずつ変えているのです。子供は、和菓子が時代を経て進化していくことに驚くと共に、作り手の和菓子を新たに創りだそうする努力や思いに感銘を受けました。そして、和菓子が100年以上生き続ける上で味や形を変えることは重要であると考えつつ、大きく変えるとお客さんが悲しむ場合もあるから、あえて変えないことも大事であると考えました。そこから、和菓子は時代やお客さんに合わせ、少しずつ姿を変えながら現在まで生き続けていることが共有されました。

対象を違う視点で見ることで、子供は同じ対象でもこれまで見えなかった部分が見え始め、対象に関する新たな認識をし始めます。新たな知識が加わることだけでなく、これまで獲得した知識と関連させることで対象の新たな価値を見いだしていくのです。そのためには、単元を貫く課題が子供の中にしっかりと位置づくことが必要です。単元の軸を教師が設定することで、子供は方向性を見失わずに学び続けることができます。それの軸の太さは単元時間に比例し、子供の学びを支えるものでなければいけません。本実践において、小単元Ⅱでは子供は現在という視点での対象を見ていましたが、小単元Ⅲでは過去という視点で対象を見たことで、これまで自分たちが食べていた現在の和菓子には作り手の思いが詰まっていて、時代を超えて受け継がれてきていることを理解しました。そのような子供は対象の未来を考え始め、小単元Ⅳでは視点を未来に変えて探究を進めていくのです。
和菓子の今昔物語 町の変化から見る和菓子の魅力(小単元Ⅱ)
2024.10.24前回に引き続き、今年度の総合の実践をご紹介します。


小単元Ⅰで設定された課題に対し、子供は和菓子に「特別感」を感じる理由として、金巻屋が作る和菓子に何かよさがあるからではないかと予想しまた。そこから、一度「特別感」を「魅力」という言葉に置き換え、金巻屋の和菓子の魅力を追究し始めました。まず和菓子の作り手と交流して必要な情報を収集しました。収集した情報には、自分達が感じている和菓子の「?」の解決につながる情報も含まれています。その後、収集した情報の整理・分析を通して和菓子作りに対する作り手のこだわりに気付くことができました。具体的に、作り手は「和菓子の作り方」、「和菓子に使うあんこ」、「和菓子で季節感を表現すること」を大切にしているということです。

子供は対象に出合い、対象に関わる人と交流して得た情報を蓄積していきます。しかし、情報を蓄積するだけでは対象の新たな価値は見いだせません。そこで、収集した情報を自分が見やすいようにまとめたり、情報同士の関係性を考える時間を作りました。そうすることで、子供は、作り手にインタビューした当初はバラバラだった情報間につながりを見いだし、情報同士がつながることでどのような意味が生まれるのかを考えていきました。

和菓子の作り手が大切にしている思いを知っていくと、子供の中で和菓子に込められている作り手の思いは、ちゃんとお客さんに伝わっているのかという疑問が生まれました。そこで、金巻屋を利用しているお客さんにアンケートを取り、お客さんが感じている和菓子の魅力を調べ、作り手が感じている魅力と比較することで和菓子のよさをさらに追究していきました。

子供は作り手の思いと買い手の思いとを比較し、「和菓子をおいしく食べてほしい!」という気持ちは買い手にもしっかり伝わっていることに気付き、両者の思いはつながっていることを理解しました。そして、和菓子を介して作り手と買い手の気持ちがつながっていることこそ、和菓子の魅力であり、自分たちが感じている特別感でもあるとまとめることができました。本小単元の中で、ある子供は和菓子の追究をし始めている段階では、和菓子の作り手のみに意識が向いていましたが、買い手にも目を向けたことで、作り手の思いが買い手とどのようにつながっているのかを捉え始めていきました。これは対象である和菓子を様々な面から見ることで、新たな気付きを得ることができた姿です。

作り手や買い手との交流を経て、金巻屋が作る和菓子の新たな魅力を見いだしている子供に、改めて「あなたの和菓子に感じている特別感は何か」と問いました。単元当初、和菓子を食べて特別感を感じていましたが、特別感の具体的なものまでは見いだせていませんでした。しかし単元末では、作り手は和菓子のことが好きであり、お客さんにおいしく食べてほしいという気持ちで作っていることを理解し、その作り手の気持ちは買い手にも伝わり、買い手も和菓子のことが好きであることが和菓子の特別感になると考えました。本小単元で、金巻屋が作る和菓子の魅力を追究していくことで、和菓子に対する新たな見方や考え方が加わり、対象の価値を更新されていく姿がありました。しかし、子供は和菓子について、もっと探究してことがあることが共有され、小単元Ⅲへ進んでいきました。
和菓子の今昔物語 町の変化から見る和菓子の魅力(小単元Ⅰ)
2024.08.07今年度は3・4年複式学級の担任をしています。そこで総合的な学習の様子をお伝えします。今年度の探究課題は、「 伝統的な食品のもつ魅力と、それを守りさらに新たなものを創ろうとする人の思い」です。そして、探究学習をする中で対象に関する情報から必要な情報を判断し、対象の新たな価値を見いだす子供の育成を目指します。


子供は前年度までの生活科や総合的な学習の時間(以下、総合)を通して学校の周りにある「もの」や「こと」に興味・関心をもっています。そして学習の中で「人」と関わってきたことに楽しさを見いだしています。そこで今年度の総合の授業開きでは、自分たちの学びを振り返るために、これまでどのような学習をしてきたのかを問いました。すると、「2年生の生活科の授業では古町のいろんなお店に行き、たくさんの人と出会ったよ。」、「朗読劇の中で自分たちなりの表現をして様々な人と関わったよ。」という経験が出されました。そして子供は今でも「色んな人と関わってみたい!」という思いをもっており、今年度も人との関り大切にしていくことが共有されました。

「人との関わりを大切にしていく」という学習の方向性が見えてきたところで、今年度の学習対象を設定していきました。附属新潟小学校の身近な「もの」や「こと」から興味・関心のあるものから子供は、学校の周りにあり、人との関りが期待できる上古町商店街に注目しました。そして上古町商店街について調べるために、商店街の探検に出かけました。1回目の探検では、上古町商店街にはどんなお店があるのかを中心に調べました。子供は様々なお店があることに気付くほか、自分が「気になる!」、「もっと調べてみたい!」と思うお店を見つけました。そこで2回目の探検では、「気になる!」、「調べてみたい!」と思うお店と交流し、上古町商店街には歴史のあるお店、食に関するお店がたくさんあることが分かりました。そして、上古町商店街の中でも歴史があり、自分たちも気になっている和菓子屋と再度交流をすることを決めました。


和菓子の試食後の感想交流会の中で子供たちは金巻屋が作る和菓子を『特別感』のあるお菓子として捉え始め、そこから和菓子の「?」を広げていきました。最初は和菓子をただのお菓子として見ていた子供が、和菓子に対して問いをもち始め、金巻屋の和菓子を自分たちの学習対象として見ようとし始めたのです。学習の見通しとして、子供は自分たちが自分たちが和菓子に対してもっている「?」を一つ一つ解決していくことで金巻屋が作る和菓子の『特別感』も明らかになるだろうという仮説を立て、自分たちがこれから考えるべき課題を焦点化していきました。

このように、小単元Ⅰでは対象と出合い、そこから自分たちが疑問に感じたことをもとに単元課題を設定しました。小単元Ⅱでは、小単元Ⅰで立てた課題について探究していきます。