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2024.10.12
本実践では,異なる視点から課題解決について考え,自分の判断を見直す子供の育成を目指して展開してきました。
附属新潟小学校の総合学習は,70時間の単元計画を作成し,実践しています。題材は学級で一つですが,同じ題材で学習していても,子供一人一人の興味関心は異なりますし,課題解決の方法も多様です。このような多様性を教師が受け入れ,その子らしい学びを保障することで,私たちは自分で学びを進めていく子供が育つと考えています。
しかし,子供が自分一人で学びを進めていくだけでは,学習対象を多面的に考察したり,新たな問いを生み出したりすることに難しさがあるので,異なる価値観をもつ他者の考えに触れる場がどうしても必要になります。したがって,どのような場を設定するのかということが,教師の大事な支援になります。
「子供がその子らしい学びを進めるとともに,多様な他者と協働していく」,これが個別最適な学びと協働的な学びが一体的に行われるということであり,このような学習が充実することで,主体的・対話的で深い学びの実現が期待されると考えます。
小単元Ⅰでは,学校そばの松林や水族館,福島潟などで,専門家と一緒に生き物の採集や観察を行いました。子供は,水辺の生き物や松林の野鳥,そのすみかにについて関心を抱くと共に,人の生活の変化により新潟市でも絶滅してしまった生き物がいることを知りました。
小単元Ⅱでは,観察してきた生き物がすみやすい自然環境について想像しました。在来種や外来種,絶滅危惧種の問題や,生き物の生態系のなどを視点に,人の手が入っている自然がよいのか,人の手が入っていない自然がよいのかが議論の対象となりました。子供は,これまでのフィールドワークを通して興味をもった生き物の立場で判断していきました。
小単元Ⅲでは,この夏の異常気象の影響を心配する子供が,生き物やその周りの自然環境について考えながら生活している方々との交流を求めました。交流した人々の考え方や生き方に共感し,人が生き物や自然に関わるよさもあるのだと捉えを変えていきました。そして,「私たちも生き物のためになる活動がしたい」という思いを抱き,自分たちに身近な場所の生き物や自然環境について調査を重ねていきました。
小単元Ⅳでは,学校そばの松林や学校の観察池の生き物にとってすみやすい自然環境について考え,現状の問題点に着目して,それを改善しようとプロジェクトを立ち上げ実践していきます。このプロジェクト活動を通して,生き物や自然環境と人との関りについて考えを深めていきます。
小単元Ⅳでは,追究していく課題について,子供が着目する具体的な問題点やその解決の方法は多様であることが予想されます。そこで,同じような問題意識や解決の考えをもつ子供でグループをつくらせ,グループで探究活動を進めさせます。子供が,問題点や課題解決の方法を多面的に考察して,よりよい課題解決の判断をしていくために,次の二つの場を設定します。一つは,他のグループや専門家と交流できる場の設定です。グループで考えた解決方法について,他者から見たよさや問題点に気付いたり,課題解決に必要な情報を集めたりできるようにするためです。もう一つは,各グループに共通する問いを浮き彫りにして,クラス全体で検討させる場の設定です。他者の異なる視点を交えて,自分たちが考えた解決方法が適切なのか判断させるためです。
小単元Ⅳの子供の姿を,松林の松枯れ病の被害に着目したグループと,観察池の大量発生した藻に着目したグループを例に紹介します。
観察池の大量発生した藻に着目したグループは,藻が与える悪い影響にふれ,藻の大量発生を抑える対策を考え始めました。
その後,藻の対策として,自分たちで取り除くことや,ブルーシートの屋根で直射日光を防いだり,ポンプを付けて水流を作ったりして藻が発生しにくい環境をつくることができないかと解決策を考えていきました。同時に,観察池の現状から,「きれいにして低学年にも興味をもってもらいたい」という思いも表出され始めました。この姿は,子供の対象への愛着の表れであり,追究していく課題に関わる考えでもあり,一つの良い姿とも見えますが,藻の対策の目的が,生き物の立ち場から自分たちの立場に寄っているとも捉えられます。このグループの子供は,藻を取り除くべきだと判断していきました。
藻を取り除いて観察池の水をきれいにすべきだと判断している子供が,藻を取り除くという行為を,生き物の立場から藻のよさという視点で見直したとき,えさや隠れ場所,産卵場所になっているなどの理由から,「藻をどこまで取り除くべきなのか」,「本当に取り除いた方がよいのか」判断に迷うと想定しました。
一方で,松林の松枯れ病の拡大に着目したグループは,母の森の木が減少していることにふれ,新しい木を植えていくことで野鳥のすみかを増やすことができないかと考え始めました。
このグループの子供は,毎年秋から冬にかけて100種類以上もの野鳥が立ち寄る松林が,これからも野鳥たちのすみかであってほしいと思い,今までのフィールドワークでの学習履歴を見返し,どんな木を植えることがよいのか考え始めました。同時に,自分たちの力だけではこの活動の実現は難しいと捉え,実際に植樹活動を行っている情報を集めていきました。このグループでは,長生きする木を植えることができたらよいと判断していきました。
長生きする木を植えて松林の木を増やしたいと判断している子供が,木を植えるという行為を,植物の立場から生育条件という視点で見直したとき,海岸そばの潮風の中で育つのか,植樹した木もまた松枯れ病になってしまうなどの理由から,「どんな木を植えるとよいのか」や「植樹することが本当によいのか」と判断に迷うと想定しました。
この2つのグループのように,課題解決の方法について他者と交流する中で,異なる視点から見直しが促され,判断に迷う内容が表出されると想定しました。
それでは,他のグループや専門家との交流を通して,判断に迷いが見られ始めた本時の場面を紹介します。子供は,他グループとの交流する中で,解決方法の具体について気になることが出てきました。
自分たちが手を加えることで環境が変わり,生き物がいなくなったらどうしようと,その責任から自分たちの解決方法に迷いが生じてきました。そこで,専門家に解決方法に関わる具体的な情報を求めました。
子供は,新潟県立植物園や新潟市水族館の学芸員の方々から聞き出した,木の生育条件や池の生き物の食物連鎖などの新たな情報を視点に,生き物の立場で課題解決の方法を見直し始めました。
その中で,藻が増えすぎない環境にするためには,藻を自分たちがとるのではなく,池に藻を食べる生き物を入れてはどうかと考え方を変えていきました。しかし,その生き物が増えたことで,他の生き物が死んだらどうしようと,判断しきれなくなりました。
このように,これまでと異なる視点から解決の方法を見直したことで,各グループで判断に迷う姿が見られました。そこで,生き物同士の関係に着目しているグループの子供に全体の場で話させました。この子供が話した「これをやったら,これがだめになる」という言葉の意味を次のように考えていきました。
生き物によって適した環境が違うから,その環境を変えるとそこにすめなくなる心配がある。だから,生き物と生き物,生き物とその周りの環境などの関係を考える必要性に気付いていきました。そこで,生き物の立場で考えると,本当にいい解決方法になりそうか問いました。
藻を食べる生き物を入れようと考えた子供は,よさと合わせて他の生き物にも変化が起きてしまうから,「考えた解決方法が本当にいいのか,悪いのか分からなかった」と話しました。
他の生き物との関係に着目している子供は,池にいるヌマエビが藻を食べることが分かったから,藻を食べる生き物は入れなくていいと話しました。また,今,池にいる生き物に影響があるから,生き物の種類は増やさない方がいいと判断しました。
藻のよさに着目している子供は,キタノメダカの産卵場所になっていることを理由に,藻を食べる生き物を入れない方がよいと話しました。また,藻を全部は取り除かない方がよいと判断しました。藻の減少が,キタノメダカの産卵場所の減少となり,キタノメダカの個体の減少にもつながってしまうと考えたからです。そこで,藻を取り除く量を考えた方がよいと提案しました。
池の中の生き物と藻の関係,生き物と生き物を関係を視点に考えていく中で,あらためてその解決方法の難しさを話す子供も出てきました。
生き物の立場で解決方法を見直したことで,生き物やその周りの環境に自分たちが関わることや,そのバランスのとり方に難しさを感じたようです。
子供の本時の振り返りです。藻を取り除いたり,藻を食べる生き物を入れたりして対策をしようと考えていた子供は,藻の長所は残し,短所を除く方法として,池の中に他の植物を入れて育てる方法がよいと解決方法を見直しました。また,今後のグループでの探究活動に向けて,自分たちの選択が逆効果にならないように,よく考えて判断していかなければいけないと感じたようです。
児童Aは,本時のように解決方法を多面的に考察することで,現実の課題を解決することの難しさを実感したようです。それでも,授業後に専門家に情報を聞きに行き,解決方法を修正していこうとする姿がありました。
児童Yは松林での植樹を考えていたグループである。交流する中で獲得した木に適した生育環境や松木枯れ病対策などの視点から,松林に何の木を植樹するべきか考え直していきました。
課題解決の判断を見直す二つの協働の場の設定により,児童Sの他,児童Aのように,「考えた解決方法の影響を想定し,解決方法を修正していこうとする姿」,児童Yのように,「異なる視点から考察して考え直そうとする姿」など,子供が異なる視点から課題解決について考え,自分の判断を見直し,今後の探究活動を自律的に進めていこうとする様相が見られました。